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アニメーションの撮影とエフェクト


エフェクトについて
エフェクトのKill-Ratio
【1】目標を定める


 皆さんはシミュレーションゲームをやった事はあるでしょうか。街を作るのでも、大金持ちになるのでも、戦(いくさ)に勝つのでも、なんでもです。

 映像作りもこのゲームと良く似ています。目標を定め地道に基盤を構築し、障害があれば克服し、最後には目標を達成する…というプロセスが、です。

 この構造は作品全体にもあてはまりますし、各セクション(作画や美術や撮影などもろもろ)ごとにもあてはまります。また、個人的な目標もありますから、個人レベルでもあてはめる事ができます。つまり、目標の設定すると言う行為は、近似形、入れ子構造になっているのです。

 この「エフェクトのKill-Ratio(キルレシオ)」では、撮影・エフェクトの映像作りに焦点を絞って、そのプロセス=「目標とした映像を完成させるまで」を述べてみたいと思います。

 まずはじめに基礎の基礎、「目標を定める」事についてまず述べてみます。


1・レベル(自身の立場)の認識

 何よりも最初に、自分の立場を自分自身ではっきり認識しておきます。これは目標を定める上での重要な行為です。

 「こんな話を作ってみたい」
 これは監督・演出の仕事です。撮影・エフェクトのテリトリーではありません。ここで話そうとしているのは撮影・エフェクトですから、目標にするには「おかど違い」です。
 では自分のテリトリーとは何でしょうか。これをふまえておかないと「おかど違いな目標」を立ててしまうかも知れません。アニメ制作のレベル構造を考えてみます。

レベル 概要 伝達手順
戦略級 プロデュース・監督し、全体の構想を司る

>プロデューサー・監督(演出)など

脚本・絵コンテ・打ち合わせなどにより、各セクションチーフに構想を伝える。

戦術級 構想を実現させるため、チーフとしてセクションを司る

>演出・作画監督・美術監督・色指定・撮影エフェクト監督など

上層よりの構想を受け、その実現方法を開発する。
構想を鑑み、スタッフを招聘し、具体的な指示を出す。必要ならば新技術を開発する。

戦闘級 カットを実際に作業し、実質的に各カットのクオリティを司る

>原画・動画・仕上・美術・撮影エフェクトなど

各セクションチーフからの指示を受け、カット内容の要求を果たせるよう、カットを完成させる。

 「レベル」の言い表し方・言葉遣いは的確な言葉が思いつかなかったので、私流に記述してみました。


2・目標の設定

 撮影やエフェクトに限らず各セクションスタッフは「戦術級」「戦闘級」に属する事になります。ですから設定する目標もそのレベルに準拠したものになります。

 まず戦術級の目標の一例を挙げてみます。作品規模は劇場作品です。監督から以下の指示を受けていると仮定します。

戦闘シーンは臨場感たっぷりに。まるで兵士がDVで記録しているかの様に。観客をその場に居合わせているかのように感じさせたい。

 絵コンテはこのオーダーが果たせるよう仕上がっています。作画など他のスタッフもこのオーダーを元に計画を練っています。
 撮影エフェクトスタッフは自らの範囲で、この構想を実現する戦術を考えます。以下はその要素です。

・戦場の空気感
・兵士の視点を体現するカメラワーク

 まだ要素はありそうですが、今回はこれらをエフェクトで実施して構想を実現させる事にします。
 以下の目標を撮影エフェクトチーフが定めた事としましょう。

照明は不安定、どちらか言えば不足ぎみに。過剰にする必要は無いが、硝煙・爆発などのガスで空気感を表現する。シャープな画質だがよく揺れるカメラワーク。

 この基本方針をもとにチーフは自セクションのスタッフへの指示の他、各セクションチーフたちと連携の打ち合わせをします。読めばわかる通り上記の内容は作画・美術・色指定にも関係する内容を含んでいるからです。


3・「戦術」要素から「戦闘」目標へ

 先ほど設定したエフェクトの基本方針をそれぞれ要素別に分解して検討してみましょう。

照明は不安定
 時間軸での輝度変化。できればレイアウトにあわせてキャラごとに。必要ならば色指定による変化を要請。粗削りな照明感を出すためにパラ等で光の届かない部分を作り、スナップ写真のような無作為な感じをを演出。
硝煙・爆発などのガスで空気感
 作画をぼかした素材、美術素材、特効、バンク素材などの適用。
シャープな画質だがよく揺れるカメラワーク
 モーションブラーの調整、カメラ軌道の工夫、色々な画面ブレの適用。大きなカメラワークが絡む場合は、作画監督と相談して作画段階から計画する。

 監督の要求する「戦場の臨場感」を実現する為の、エフェクトの作業目標が姿を現しはじめました。いよいよ作業者のレベル=「戦闘級」の要素が見えてきました。

照明>
 輝度変化・パラ
空気感>
 素材のぼかし・バンク
カメラワーク>
 移動ぼかし・画面ブレ

 作業者の目標はこれらを制御しカットを指示通りに仕上げる事です。


4・まとめ

 では、ここでまとめてみます。監督のオーダーが作業者に渡る頃にはどのように変化しているか、参照して下さい。

戦略級
=監督
「戦争モノ」の臨場感、主人公(兵士)の主観でシーンを表現する事を希望
戦術級
=チーフ
実際に使用するツールや技法(例えばモーションブラー、露出の時間的変化、ガス等の空気感、大きく揺れるカメラワークなど)でシーンを表現する計画を立案
戦闘級
=作業者
移動ぼかしの制御、パラの使用、ケムリセルのぼかし方、ガスやモヤのバンクの使用、画面揺れ・ブレの幅の制御、これらを用いカットに対応

 目標を定めるという事は、自身の立場を鑑み、具体的に設定する事です。チーフならば戦術・戦闘級の、スタッフならば戦闘級のレベル視野で設定する事が大切です。(話がさらに大きくなるので触れませんが、人員・機材の手配に制作(プロデューサー・制作担当)・システム担当との連携が必要なのは、言うまでもありません)

 「目標を定める」…たったそれだけの事に何を…と言う人もいるかも知れません。しかし私は、目標を定めず場当たり的に事にあたった為、散漫な上がりになってしまった作品をいくつも見てきました。

 「良い作品を作る」「かっこいい映像を作る」

 これらは目標では無く、大志とか信条みたいなものです。心の中にそうした大志を抱く事は良い事ですが、実作業時の目標にはなり得ません。少なくとも各セクションチーフ・作業者が「目標」として掲げるには不適当、曖昧過ぎます。例えば「かっこいい」と言われる表現を、どのツールを用いどのように制御すれば実現できるのかを、具体的に考え作業工程に組み込めなければなりません。

 上に挙げて述べてきた例では、自身の立場を認識し目標を定めた事によって、作業者がどのような技術を有す必要があり、どのように画面を仕上げるかが具体的にわかりました。それは、漠然とした「かっこ良く」「リアルに」のようなものではなく、(例えばAfterEffectsで)どのパラメータをいじるのかすら思い浮かぶ具体的な指針を得る事なのです。

 監督の「かっこ良く」のオーダーを、チーフは「ここに光のフレア・ここに影」という具体内容に置き換え、作業者は「グラデーションをレイヤーとして配置、トーンカーブは云々」に置き換えます。その置き換えの行為が、目標を定める事なのです。


 以上、「目標を定める」でしたが、既に解っている人にとっては「当たり前」と思う事だったかも知れません。ただこの点をふまえておかないと、先に進めない感がありましたので、あえて述べました。

 「レベル」、すなわち戦闘級やら戦術級と私が言い表している事は、実は現場ではオーバーラップしている部分も少なくありません。きっちり分離している事の方がかなり珍しいです。
 アニメの監督は演出にも深くたずさわっていますので、タイムシートのチェックなどのもろもろの技量も必要とされます。
 またチーフ=作業者という例も現場では珍しくありません。オーバーラップどころか同一と言う状況です。その場合は戦術と戦闘の両目標を一個人の中で定めておかなければなりません。

 このような状況ですから、各「レベル」での目標を定めておかないと、結果的に映像の完成像を見失う事になります。目標をあえて設定しなくても、場当たり的にカットをこなして映像は完成しますが、「強い意図を感じる映像」はなかなかできません。(オープニングなどの短い尺ならば、一人の作業者が全部を担当する事で、場当たり的に処理してもその作業者本人の作家性が映像に表出することがありますが、長尺では物理的に不可能です。)

 自分の位置するレベル=立場を考えて的確な目標を得る事が、まず何より、映像作りの第一歩です。



→【2】数々の障害

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